航空機モデル周りの衝撃波
衝撃波(shock wave)とは、物体が空気の静止状態に対して音速を超える速度で移動するときに発生する強力な圧力波です。衝撃波が形成される主な理由は、物体が空気の静止状態に対して音速を超える速度で移動するため、物体の前方の空気が急激に圧縮され、強い圧力と温度の上昇を引き起こすことにあります。この圧力変化は、衝撃波として空気の流れに強い影響を与えます。衝撃波は、爆発や超音速の飛行物体、特定の工業プロセスなど様々な状況で発生することが知られています。
衝撃波の威力を理論的に示す場合、衝撃波前方と後方の圧力、密度、速度、温度などの比で表され、これらの比はマッハ数に基づいて評価されます。
但し、特定の条件下での理論的なものとなるため、実際の威力は発生源や環境によって大きく変わります。空気分子が振動するだけでなく、衝撃波の伝播方向に移動することで風圧として影響を与えます。
衝撃波は、自然界や人工的な現象で広く観測されます。具体的な例として、航空機が超音速で飛行する際に発生する衝撃波は、地上に到達すると窓ガラスを割るなどの被害をもたらし、ソニックブームと呼ばれる大きな騒音になります。
また、爆発現象では爆風の風速が秒速300m/sを超えることで衝撃波が発生し、人工物や人体に致命的な打撃を与えることがあります。爆発現象では爆風の効果として高温・高圧の火球が形成、その表面に衝撃波が発生し急速に膨張します。この火球は数百万度の温度を持ち、衝撃波は広範囲に爆風となって拡散し、そのエネルギーは周囲に甚大な影響を及ぼします。こういった爆発によって衝撃波を伴い燃焼する現象を爆轟(ばくごう)と呼び、その他の例として火山の噴火や雷が挙げられます。
衝撃波は、物体が音速よりも大きく移動する超音速流(マッハ数>1)で発生する圧力波の一種です。波のように媒質中のエネルギーを伝播します。大気中の衝撃波は常に超音速で、音の速さ(約340m/s ※高度0m 気温15℃時)より高速で伝播します。また、水中の衝撃波は、音の伝播速度に倣い(約1500m/s 水圧・温度・塩分濃度によって変化)それ以上の速度で伝播します。
物体が音速を超える速度で移動するときには、物体から発せられた音波が重なり合って強い圧力変化を引き起こす波が発生します。この波をマッハ波と呼びます。マッハ波は、物体の後方に円錐形の領域で遅れて伝播し、マッハコーンと呼ばれる領域を形成します。マッハコーンの縁に沿って伝播するマッハ波は、圧力や密度などの物理量が不連続に変化する波で、このような波が衝撃波と呼ばれています。
衝撃波の速度は、媒質中の音速よりも常に大きくなりますが、その差は媒質中の圧力や密度などの状態量に依存します。一般的には、媒質中の圧力や密度が高いほど、衝撃波の速度も大きくなります。
衝撃波は、物体の移動に伴う媒質の圧縮と、それに続く急激な圧力の変化に起因します。物体の速度、形状、そして周囲の媒体の性質によって影響を受けます。
物体が媒質中で音速よりも大きく移動すると、その前方でマッハ波である圧力波が重なり始めます。圧力波の重なりは、物体の速度が増加するにつれて強まり、最終的に強い圧力変化として衝撃波を発生させます。この過程は、物体の速度が音速に近づくにつれて、マッハ波の周波数が上昇し、波の振幅が増大することによって引き起こされます。
物体の速度が音速を超えると、前述の圧力波の重なりは、周囲の媒質を急激に圧縮します。これにより、物体の後方に円錐形の領域を形成し、特有の形状と特性を持つことが知られています。衝撃波の強度や形状は、物体の速度や形、そして周囲の媒体の性質によって異なります。
物体が音速を大きく超える速度で移動する時、流れの特性が急激に変わります。その過程は非可逆的となり、エントロピーが増加して衝撃波が形成されていきます。衝撃波は媒質中の狭い領域で発生し、媒質の物理的性質が変わり、通過すると媒質の静的圧力、温度、および密度は瞬時に上昇します。
音波の利用は、工業から医療まで私たちの生活の多くの面で不可欠な役割を果たしています。特に注目されるのが、衝撃波と超音波です。この2つの音波は、同じ「音」というカテゴリーに属しながらも、発生原理、物理的特性、用途、熱の発生という面で大きく異なります。
衝撃波は、音速を超える現象に伴って生じる強力な圧力波であり、医療分野での結石破砕や疼痛に使用されています。一方で、超音波は人間の耳には聞こえない高周波の音波で、診断機器や産業用機器など幅広い分野で活用されています。
以下の表では、これら2つの音波の特性や用途をまとめています。
特性 | 衝撃波 | 超音波 |
発生原理 | 音速を超える物体の運動や爆発現象によって発生 | 振動する物体によって発生 |
物理的特性 | 圧力の不連続面を形成して高いエネルギーを持つ | 連続した音波であり主に周波数によって特徴づけられる |
用途 | 医療分野での結石破砕や疼痛など限定的な用途で使用 | 診断(超音波診断)、産業(材料検査や洗浄)など広範な用途で使用 |
熱の発生 | ほとんど熱を発生しない | 出力を高くすると熱を発生させるため出力強化に制限がある |
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衝撃波は、工業分野において様々な分野で活用されており、その応用範囲は広がり続けています。主な用途としては、材料加工、洗浄、破砕、溶接、混合などが挙げられます。これらの用途において、衝撃波は高いエネルギー効率、精密な制御、非接触加工などの利点を発揮します。
シュリーレン法は、衝撃波の可視化に使用される技術の1つとして広く知られています。航空宇宙工学などの研究分野で、その適用の容易さから頻繁に採用されています。衝撃波自体は目に見えない現象です。しかし、衝撃波が発生し密度変化が媒質に生じると、媒質の屈折率が変動します。
この微細な屈折率の変化をシュリーレン法で検出し、画像として視覚的に捉えることができます。衝撃波は超音速の現象で、通常のカメラで捉えるのは困難です。そのため、伝播の様子を詳細に観察する際は、ハイスピードカメラが適しています。
航空機モデル
スペースシャトル
くさび形モデル
撮影協力:東洋大学 理工学部 機械工学科 藤松 信義 先生
使用機材:システムシュリーレンSS series
超音速流中における航空機・スペースシャトルモデル周りの可視化画像です。大気吸引式超音速風洞で、設計マッハ数2.0、断面40mm×40mm流路内にモデルを設置しています。
キャビテーションの気泡群から、連続的に発生する衝撃波を可視化。映像は、ハイスピードカメラを使って30万fps(1秒間に30万コマ)で撮影した様子です。
船舶のプロペラ周りで発生するキャビテーション
キャビテーションとは、流体中で圧力が局所的に低下し、気泡が発生し、その後圧力が回復することで気泡が急激に収縮する現象です。このプロセスは、エンジニアリング、特に流体機械や水中航行体の設計において重要な考慮事項となります。
キャビテーションは、特定の条件下でのみ発生します。流体の圧力がその蒸気圧以下に低下すると、流体内に気泡が形成されます。これは通常、流体が高速で移動する際や物体表面近くで見られる現象です。キャビテーションの影響は、材料の摩耗や損傷、効率の低下、騒音の増加など、多岐にわたります。
船舶のプロペラ: キャビテーションにより、プロペラの表面が損傷し、効率が低下することがあります。これは、プロペラの設計時に特に考慮されるべき事項です。
水力タービン: 水力タービンのブレードにキャビテーションが生じると、性能の低下やブレードの損傷につながります。これはタービンの寿命を縮め、メンテナンスコストを増加させる可能性があります。
医療分野の超音波治療: 超音波治療において、キャビテーションは組織の破壊や薬剤の深部への浸透を助ける役割を果たします。この分野では、キャビテーションの効果を積極的に利用しています。
キャビテーションについてこちらで詳しく解説しています➡キャビテーションとは|原理や発生条件を可視化事例と合わせて解説
オブジェクトを配置して、衝撃波が伝播する様子を可視化した映像です。斜め衝撃波が伝播する様子とオブジェクトに衝突して反射する様子をハイスピードカメラで撮影しています。
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ラバルノズルからの衝撃波
キャビテーションジェット
シュリーレン法による衝撃波の可視化は、様々な流体現象の理解に役立っています。
具体的には
などが例として挙げられます。
このことから、シュリーレン法による衝撃波の可視化には以下のようなことを把握できるメリットがあります。
シュリーレン法を用いることで、衝撃波の具体的な形状や伝播方向を明確に捉えることができます。これにより、物体の形状や速度、物体と流体の相互作用によって生じる衝撃波の特性を詳細に解析することが可能となります。
衝撃波の背後や前方に存在する密度の変化や勾配をリアルタイムで観察することができます。これは、流れの安定性や乱れの発生、物体の挙動に関する重要な情報を提供する要素となります。
衝撃波の通過に伴うガスの屈折率の変動を詳細に捉えることができます。屈折率の変動は、ガスの密度や温度の変化を示す指標となり、これを基に流れの特性や物体の影響を評価することができます。
撮影協力:横浜国立大学 空気力学研究室 北村 圭一 先生 福嶋 岳 特任研究員
超音速流れ中に置かれたオブジェクト周りの衝撃波をシュリーレン法で可視化しています。オブジェクトは直径14mm 半長角15°の円錐型模型。主流マッハ数1.8の流れで発生する衝撃波をシュリーレン法で可視化し、ハイスピードカメラで撮影した映像です。撮影した映像から画像解析でマッハ角を算出しマッハ数の推計まで行った事例となります。
撮影協力:豊田工業高等専門学校 機械工学科 小谷 明 先生
超音速で伝播する衝撃波をシュリーレン法で可視化しました。衝撃波管で発生させた衝撃波をオブジェクトに衝突させ、反射する様子を捉えています。
使用機材
衝撃波は、物体が音速を超える速度で移動する際に生じる強力な圧力波です。これは物体が
その周囲の気体や液体を圧縮し、その結果として生じる急激な圧力と密度の変化の波です。
衝撃波の移動速度は、その生成される条件によって異なりますが、物体が音速を超えて移動する
際に発生するので、少なくとも音速以上の速度です。標準的な大気条件(気温15℃ 海面付近)
では時速約1225km(秒速約340m)です。
シュリーレン法は、透明媒体中の屈折率の変化を可視化する技術です。衝撃波が気体中を伝播する
際に気体の密度に急激な変化をもたらし、屈折率に変化が生じるためシュリーレン法で可視化
することができます。詳しくはこちらで解説しています。シュリーレン法とは
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