ろうそくで温められた空気が上昇する様子:シュリーレン法で可視化
シュリーレン法とは、透明体の中に屈折率の異なる部分があるとき、光の進行方向の変化を利用してその部分が明確に見えるようにする光学的手法です。媒質中を伝播する衝撃波や超音波の進行状況、炎による気流の上昇、光学ガラスの欠陥などを観察することができます。
密度構造を評価するには最適な可視化手法ですが、流れを定量的に評価・計測するという点では、トレーサーを用いるPIV計測が適しています。対してトレーサー粒子の追従性が確保できない高速現象の可視化では、シュリーレン法が有効です。
シュリーレン法では透明な気体・液体・固体の不均質な状態が、密度勾配として映し出されます。密度勾配によるわずかな屈折率の変化を、平行な光により大きな明暗の差に変えて観測する手法です。
点光源から発振した光は、シュリーレンレンズ(または凹面鏡)で平行な光(平行光束)になります。平行な光は、被写体を透過して再びシュリーレンレンズで焦点を結び像を作ります。シュリーレンレンズによって作られた平行な光の領域が、シュリーレン法の観測エリアになります。
被写体を観測エリアに設置して、平行な光を透過させることで現象を観測します。平行な光は、被写体の密度の違いによって屈折して再び集光して結像します。屈折した光が結像する位置に置かれたナイフエッジで、主光束がカットされシュリーレン像としてカメラに映し出されます。
シュリーレン法では、流体の可視化で多く活用され「流れの可視化」手法の一つでもあります。PIVのようにマーカーとなるトレーサー粒子が必要ないので、粒子の追従性を考慮する必要がありません。トレーサー粒子を実験系に散布できない環境でも可視化実験を行えることが、シュリーレン法のメリットの一つです。
シュリーレン法を行う代表的な構成として、「凹面鏡2面対向式」と「レンズ式」があります。どちらも点光源からの光を平行な光(平行光束)にして観測を行います。
また、カトウ光研ではシュリーレン法をもっと手軽に扱うことのできるシステム型シュリーレンを提案しています。光学アライメント調整が不要で、卓上でシュリーレン現象を観測することができるシステムです。
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ナイフエッジ
システムシュリーレンSS series
※ナイフエッジを標準装備
シュリーレン法におけるナイフエッジの役割は、微小な密度の変化を可視化するために重要です。具体的には、光源から発せられた光が対象物を通過後、レンズや凹面鏡を経由してナイフエッジに到達します。
ナイフエッジは光束の一部を遮断し、対象物によって屈折させられた光のみを透過します。結果として生じる光の干渉パターンを利用して、対象物の周りの空気の流れや温度変化など目に見えない現象を可視化します。
ナイフエッジの役割は光束を遮ることによって、密度変化による光の屈折を強調し、それを像の明暗の差として捉えることができます。ろうそくの周りの空気の流れや、アルゴンガスやヘリウムガスなど目に見えない気流のパターンを可視化することが可能になります。
シュリーレン法で可視化した衝撃波
シャドウグラフ法で可視化したガラスの脈理
シュリーレン法による密度勾配の可視化では、ナイフエッジの有り無しで見え方に違いが起こります。ナイフエッジが無い構成をシャドウグラフ法。ナイフエッジが有る構成をシュリーレン法といいます。
シャドウグラフ法は密度勾配の変化(2次微分)を表すのに対して、シュリーレン法では密度勾配そのもの(1次微分)を可視化します。
ガラス検査などではシャドウグラフ法の可視化が多く、一方でガス・衝撃波・超音波など連続的な密度勾配の変化にはシュリーレン法による可視化が適しています。
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シュリーレン法で可視化した事例を紹介いたします。様々な分野でシュリーレン法による可視化技術が研究に貢献しています。カトウ光研では実験条件に合わせた最適な提案をいたします。
撮影協力:横浜国立大学 空気力学研究室 北村 圭一 先生 福嶋 岳 特任研究員
超音速流れ中に置かれたオブジェクト周りの衝撃波をシュリーレン法で可視化しています。オブジェクトは直径14mm 半長角15°の円錐型模型。主流マッハ数1.8の流れで発生する衝撃波をシュリーレン法で可視化し、ハイスピードカメラで撮影した映像です。撮影した映像から画像解析でマッハ角を算出しマッハ数の推計まで行った事例となります。
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撮影協力:豊田工業高等専門学校 機械工学科 小谷 明 先生
超音速で伝播する衝撃波をシュリーレン法で可視化しました。衝撃波管で発生させた衝撃波をオブジェクトに衝突させ、反射する様子を捉えています。
次世代のエネルギーとして注目される「水素」をシュリーレン法の技術を使って見える化しました。ノズルから放出される水素の"密度差"をシュリーレン法で画像としてとらえます。
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撮影協力:JAXA(宇宙航空研究開発機構)宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学系 坂本 勇樹 先生
キャビテーション気泡が崩壊する時に発生する圧力波を可視化しました。可視化には「シュリーレン法」を用いて圧力波(衝撃波)が伝播する様子を鮮明にとらえています。
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上述の通り、ナイフエッジを用いて主光束をカットすることが、シュリーレン法とシャドウグラフ法の主な違いです。構成はシャドウグラフ法の方がシンプルになります。
そのため、光学的可視化手法として確立された時期についても、シュリーレン法よりシャドウグラフ法が先になりました。諸説ありますが、2つの手法の発生と歴史的な歩みをご紹介いたします。
ロバート・フック
[Robert Hooke (1635 – 1703)]
"Portrait of Robert Hooke" by Rita Greer, 2004 Licensed under Free Art License
Rita Greer - The original is an oil painting on board by Rita Greer, history painter, 2004. This was digitized by Rita and sent via email to the Department of Engineering Science, Oxford University, where it was subsequently uploaded to Wikimedia., FAL, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7667243による
ジャン=ポール・マラー
[Jean-Paul Marat (1743 – 1793)]
"Jean-Paul Marat" - 出典: [ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)]
- ライセンス: パブリックドメイン
シャドウグラフ法を最初に科学的に実証したのは、イギリスの科学者であるロバート・フック[Robert Hooke (1635 – 1703)]でした。ろうそくを光源として用いて実験し、観測エリアに置かれた別のろうそくにより暖められた空気の上昇を観察したと言われています。
また、フランス革命でも知られている科学者ジャン=ポール・マラー[Jean-Paul Marat (1743 – 1793)]は、火炎の研究に用いたとされています。当時、火は物質的な要素であると広く考えられていましたが、彼は高温の流体現象であることを実証するためにシャドウグラフ法を用いた実験を行いました。
レオン・フーコー
[Jean Bernard Léon Foucault(1819 – 1868)]
"Léon Foucault" - 出典: [ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)]
-ライセンス: [Creative Commons Public Domain Mark 1.0]
エルンスト・マッハ
[Ernst Waldfried Josef Wenzel Mach (1838 – 1916)]
"Ernst Mach" - 出典: [ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)]
- ライセンス: [Creative Commons Public Domain Mark 1.0]
ナイフエッジを用いたシュリーレン法を初めて考え出したのは、フランスの物理学者レオン・フーコー[Jean Bernard Léon Foucault(1819 – 1868)]と言われています。望遠鏡に用いられるレンズ、ミラー、その他の光学部品の検査用として1859年に発明しました。
現在知られているような、流体の可視化実験用途にシュリーレン法を用いたのは、ドイツの物理学者アウグスト・ヨーゼフ・イグナツ・トープラー[August Joseph Ignaz Toepler(1836 – 1912)]です。流体の流れと衝撃波の検証に応用しました。
シュリーレン法を用いた実験で一番有名なものは、1887年にオーストリアの物理学者エルンスト・マッハが撮影した、飛翔する弾丸の衝撃波を可視化した歴史的な写真です。
"Photography of bow shock waves around a brass bullet, 1888" by Ernst Mach -
出典: [ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)] - ライセンス: [Creative Commons Public Domain Mark 1.0]
シュリーレン(Schlieren)は、流体の中で密度や温度が不均一な場合に生じる屈折率の変化、
密度勾配を可視化する技術です。ドイツ語で脈理やムラを意味します。
光は異なる密度を持つ媒体を通過するときに屈折します。空気や液体の密度が変化すると、
光の速度が変わり光路が変化します。この屈折率の違いによる密度の勾配がシュリーレン現象
として発生します。
ナイフエッジが有るか無いかの違いです。ナイフエッジがある構成をシュリーレン法、
ナイフエッジが無い構成がシャドウグラフ法です。シュリーレン法では、密度勾配を可視化するのに
対してシャドウグラフ法では密度勾配の変化を可視化します。
基本的に密度の変化が起きている現象を可視化できます。
シュリーレン法を行う基本構成として、点光源、凹面鏡(またはレンズ)×2、ナイフエッジ、
カメラが必要になります。詳細は下記製品ページもご参考ください。
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