運動解析とは、人や物の特徴点ごとの座標値を算出し、動きが加わった時の変化量を算出する画像処理技術です。モーションキャプチャー、動作解析とも言われています。人の関節やロボットのノズルなど、計測したい対象にマーカーを貼付しカメラで撮影します。撮影した画像上で移動するマーカーをソフトウェアで追尾することで、非接触かつ多点同時の計測ができます。画像から対象物の速度、加速度、角度、移動距離などが算出でき、多数の物理量から動作を評価することができます。
具体的な対象として
・スポーツ
・ロボット
・メディカル
・3DCG
などが挙げられます。
中でも、ロボットのティーチングや位置補正のフィードバックなど”ロボティクス分野”やフォームを分析し、効率の良い肉体挙動を評価する”スポーツ分野”が有名です。それ以外にも、リハビリテーションや整形外科などの”メディカル分野”では、患部だけでなく全身の動きを評価して、負荷の掛かり具合を診る総合的な診断も可能です。
学術研究以外では、2DCGや3DCGで描画されたキャラクター(アバター)を動かすために運動解析の技術が使われています。
運動解析では、物体の動きを定量的に記述することを目的としています。物体の位置、速度、加速度などの動的な特性を測定したり、数式や図表で表現したりします。また、物体の動きに関連するエネルギーや運動量などの保存則や対称性なども研究します。
運動解析では、物体に働く力を直接的に考慮しないことがあります。これは、物体の位置や速度などから力を間接的に推定することができるからです。例えば、物体が一定の速度で直線運動をしている場合、物体に働く合力はゼロであると推定できます。このように、運動解析では、物体の動きの特性やパターンを把握することができます。
運動解析は、物理学の基礎的な分野ですが、それだけではありません。運動解析の知識や技術は、さまざまな応用研究や実用的な技術の開発にも貢献しています。例えば、スポーツ科学やバイオメカニクスでは、人間の身体や運動能力を運動解析で評価したり改善したりします。また、ロボット工学や航空宇宙工学では、機器の動作や制御を運動解析で設計したり最適化も行います。
運動解析は、物体の動きを詳細に理解し、その動きの原因や結果を予測するための手法です。この分野において、物体の「位置」、「速度」、「加速度」という3つの物理量には、以下のような意義があります。
位置は、物体の動きの出発点と終点を示す基本的な要素です。運動解析において、物体の初期位置と終了位置を知ることは、物体がどのような経路を通って動いたのかを理解するための第一歩となります。また、位置の変化を時間とともに追跡することで、物体の動きのパターンや特性を詳細に分析することが可能となります。
速度は、物体が一定の時間内にどれだけの距離を移動(変位)したかを示す指標です。運動解析において、速度の計測は物体の動きの速さや方向性を評価するための重要な要素となります。速度の変化を分析することで、物体がどのような外部要因や力に影響されているのか、またその影響の大きさや方向を詳細に知ることができます。
加速度は、物体の速度が変化する度合いを示す要素です。運動解析において、加速度の計測は物体の動きの変化や不規則性を評価するための鍵となります。加速度が生じる原因を分析することで、物体に作用する外部の力やその影響を正確に評価することが可能となります。
これらの要素を適切に計測し分析することで、運動解析は物体の動きの詳細な特性やその原因を明らかにすることができます。工学や医学、スポーツ科学など多くの分野で、物体の動きを最適化したり、問題点を特定し改善するための手がかりを得ることができます。
もっともシンプルな構成では、ビデオカメラと運動解析ソフトウェアの2点で2次元解析ができます。動きの速い対象物を計測するには、ハイスピードカメラを使用して、高い時間分解能の計測が可能です。これらは、カメラで撮影をして動画として保存しておいたデータを対象としています(オフライン解析)
一方、カメラで撮影をしながらリアルタイムで計測して、数値結果を算出する運動解析(リアルタイムモーションキャプチャー)システムもあります。カメラ、ソフトウェア、キャリブレーション(校正)が全て統合されたシステムになります。フォースプレート、筋電計、ロードセル、ひずみゲージなど、外部の計測機器と同期しながら計測することもできます。
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キャリブレータ(キューブ型)
ワンド
カメラの位置と角度、計測したい領域の大きさを定義するためにキャリブレーション(校正)を行います。キャリブレーションは、寸法の基準となるキャリブレータを撮影して、画像と空間を関連付けます。
キャリブレーションには、いくつか方法があり代表的なものを紹介いたします。キューブ型のフレームを組んで、特徴点となるマーカーを設置します。このマーカーをソフトウェアで自動認識させます(DLT法)また、ワンドと呼ばれる複数のマーカーが取り付けられた指示棒を、カメラの撮影範囲内で振り回し、自動認識をさせる方法もあります。この時、必要に応じてレンズ歪み補正も行います。
カメラを配置(3次元運動解析の場合)
ソフトウェアで画像と空間を関連付ける
※キャリブレーション結果を反映
2次元の運動解析を行うにはカメラ1台、3次元の運動解析を行うには、複数台のカメラで撮影します。カメラ1台の2次元運動解析では、X,Yの2軸の情報となるため、奥行方向の動きは解析できません。
一方、カメラ複数台(3台以上を推奨)で撮影をする3次元運動解析では、奥行方向の動きも解析できます。対象物を囲むようにカメラを配置して、全てのマーカーが映るように撮影をします(カメラの台数が多いほど、死角が少なくマーカーを認知しやすくなります)
リアルタイムの計測を含めた3次元運動解析は、再帰性反射(受けた光を同じ方向へそのまま返す)と真円度の高いマーカーを使用することが一般的です。水中などマーカーが使用できない環境では、自発光するLEDマーカーなどもあります。
マーカーの追尾には、ソフトウェアの機能として複数の方法があります。
・相関追尾
・ニ値化追尾
・色相ニ値化追尾
・チェッカーマーカー追尾
いずれも、撮影した対象物の画面内の輝度情報を特徴として追尾します。対象物の大きさ、運動量、マーカーの状態を加味して、追尾方法を選択できます。下記で具体的な追尾方法をご紹介いたします。
ゴルフボールの実写画像
ニ値化処理
相関追尾は、範囲を指定したテンプレート(検査領域)の対象物を検知して、次画面で類似したパターンを探査する追尾方法です(パターンマッチング)相関追尾は、テンプレートの境界を跨いでも追尾ができます。そのため、物体の角や先端、模様や傷などエッジがある部分からも自動追尾が可能です。
ゴルフボールの実写画像
ニ値化処理
ニ値化相関による追尾は、「ブロブ解析」とも呼ばれ、グレースケールの輝度を基準とした追尾方法です。輝度0~255に”しきい値”を設け、黒:0と白:1に変換(ニ値化)します。この処理で、計測の対象とならない背景を明確に切り分け、対象物にだけ注目することができます。
ニ値化処理をした画像からは、対象物の重心を求めることができます。重心が求まると、運動する(マーカーが貼付された)対象物を自動的に追尾することができます。特に3次元運動解析では、マーカーがどの位置から見ても球体であることが精度に寄与します。
運動解析は、対象物に貼付したマーカーを追尾します。マーカーが計測点となり、2次元または3次元の位置情報を算出します。取得されたマーカーの情報から、速度・加速度・角速度などを出力します。出力された物理量からアニメーション、グラフの描画などが行え、対象物の運動を詳細に把握することができます。
撮影協力:東京農業大学 「農友会弓道部」の皆様 / 湘南工科大学 弓道部の皆様
弓道の動作をハイスピードカメラを使って撮影。動作をスーパースロー映像で可視化してモーションキャプチャーによる精密な分析をしました。
文字を書いている手の動きを3次元運動解析した映像です。複数台のカメラを使用して、手に貼付されたマーカーの動きを撮影。動画をソフトウェアに取り込み、マーカーを追尾して解析しています。
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