ミー散乱とレイリー散乱|原理と事例を解説

ミー散乱とは?

ミー散乱とレイリー散乱_朝もや

ミー散乱(Mie Scattering)とは、光が空気中の微粒子や液滴によって散乱される現象の一種です。特に、散乱を引き起こす粒子の大きさが光の波長と同じ程度、もしくはそれ以上の場合に発生します。この散乱の特徴は、波長にあまり依存せず、すべての色の光がほぼ均等に散乱される点です。

ミー散乱の特徴

粒子サイズとの関係

ミー散乱は、粒子の大きさが光の波長(数百ナノメートル)に近い、またはそれ以上の場合に強く発生します。例えば、水滴や塵、霧、煙などが関与する場合、ミー散乱が主な散乱機構になります。

波長依存性が低い

レイリー散乱とは異なり、ミー散乱は波長による影響が小さいため、すべての波長の光が均等に散乱されます。このため、散乱された光は白っぽく見えます。

前方散乱が強い

ミー散乱とレイリー散乱_ミー散乱のイメージ

ミー散乱では、光が粒子によって散乱される際に前方方向(光の進行方向)への散乱が特に強くなります。これは、散乱を引き起こす粒子のサイズが光の波長と同程度かそれ以上の場合、光が大きく偏向されにくく、進行方向に多くの光が集中するためです。

この特性により、霧や煙の中では遠くの光がぼんやりと見えたり、視界がかすんだりする現象が起こります。

ミー散乱の身近な例

雲が白く見える理由
雲を構成する水滴の大きさは可視光の波長よりも大きいため、すべての波長の光が均等に散乱されます。その結果、雲は白く見えます。

霧や煙の見え方
霧や煙の粒子も光を均等に散乱するため、視界がぼやけたり白っぽく見えたりします。

夕焼け時の太陽の見え方
夕方の低い太陽は、レイリー散乱によって青色成分が取り除かれた後、ミー散乱によって残った光が拡散し、赤みがかった太陽として見えます。


レイリー散乱とは?

ミー散乱とレイリー散乱_夕焼け

レイリー散乱(Rayleigh Scattering)とは、光が空気中の分子や微小な粒子によって散乱される現象の一種です。特に、光の波長よりもはるかに小さい粒子(例えば、空気中の酸素分子や窒素分子)によって生じる散乱を指します。レイリー散乱の大きな特徴は、光の波長に強く依存することです。

レイリー散乱の特徴

粒子サイズとの関係

レイリー散乱は、光の波長(数百ナノメートル)よりもはるかに小さい粒子(数ナノメートル程度)によって引き起こされます。例えば、空気中の分子や極めて小さなエアロゾルが主な散乱源になります。

波長の短い光ほど強く散乱される

レイリー散乱の強さは、波長の逆数の4乗(∝ 1/λ^4)に比例します。そのため、短い波長(青や紫)の光は長い波長(赤や黄)の光よりもはるかに強く散乱されます。

全方向に均等な散乱

ミー散乱とレイリー散乱_レイリー散乱のイメージ

レイリー散乱では、光が波長よりもはるかに小さい粒子(空気分子など)によって散乱されるため、光は全方向に均等に散乱されます。特に、進行方向だけでなく側方や後方にも散乱されるため、空がどの方向から見ても青く見える現象が生じます。

この特性により、大気中の光の分布が均一になり、遠くの山が青く霞んで見えるといった現象も発生します。

身近な例

空が青く見える理由
太陽光にはすべての波長の光が含まれていますが、地球の大気中では短い波長の青色光がより強く散乱されるため、私たちの目には空が青く見えます。

夕焼けが赤く見える理由
夕方の太陽光は、地平線近くを通るため大気を通過する距離が長くなります。その間に青い光はほとんど散乱されてしまい、残った赤やオレンジの光が私たちの目に届くため、夕焼けが赤く見えます。

遠くの山が青く見える理由
遠くの景色が青みがかって見えるのも、空気中の微粒子によるレイリー散乱の影響です。遠くに行くほど散乱光の割合が増え、青色の光が目立つようになります。


ミー散乱とレイリー散乱の違い

項目 ミー散乱 レイリー散乱
粒子の大きさ 光の波長(数百ナノメートル)と同程度、またはそれ以上の大きさの粒子(微小な水滴、エアロゾル、塵など)が光を散乱する。 光の波長(数百ナノメートル)よりはるかに小さい粒子(空気分子や微小なエアロゾル)が光を散乱する。
波長依存性 ほぼすべての波長の光を均等に散乱するため、波長の影響は少ない。そのため、散乱光は白っぽく見えることが多い。 散乱の強さは波長の逆数の4乗(∝1/λ⁴)に比例する。短い波長(青や紫)の光がより強く散乱され、長い波長(赤や黄)は散乱されにくい。
散乱の方向性 前方散乱が強く、光の進行方向に多くの光が散乱される。そのため、霧や煙の中では遠くの光がぼやけたり、霞んで見えたりする。 全方向に均等に散乱する。特に側方や後方にも散乱光が観測されるため、空や遠くの山が青く見える現象が起こる。
発生する主な環境 霧、雲、煙、粉塵、エアロゾルなど、比較的大きな粒子が存在する環境で発生する。 空気分子や大気中の微小な粒子によって発生し、大気現象に大きく関与する。
見え方の特徴 すべての波長の光がほぼ均等に散乱されるため、霧や雲は白っぽく見える。光がぼやけたり、霞んで見えたりすることがある。 短い波長の光(青)が強く散乱されるため、空が青く見える。逆に、長い距離を通過すると青い光が失われ、夕焼けが赤く見える。
代表的な例 雲が白く見える、霧や煙で視界がぼやける、粉塵による光の拡散。 空が青い、夕焼けが赤い、遠くの山が青く見える、大気中の分子による散乱。


ミー散乱とチンダル現象

ミー散乱とレイリー散乱_チンダル現象

ミー散乱(Mie Scattering)とチンダル現象(Tyndall Effect)は、どちらも光の散乱に関係する現象ですが、それぞれ異なる特徴を持っています。特に、チンダル現象はミー散乱の一例として説明できるため、両者の関係を理解することは光の散乱の仕組みを学ぶ上で重要です。

チンダル現象とは?

チンダル現象とは、コロイド溶液や微粒子を含む液体・気体の中で光を当てたとき、光が散乱して光の筋が見える現象です。例えば、暗い部屋で懐中電灯を霧の中に向けると、光の道筋がはっきりと見えることがあります。これは、空気中の微小な水滴や塵が光を散乱させることによるものです。

チンダル現象は、粒子の大きさが可視光の波長(約400~700nm)と同じか、それよりも大きい場合に発生します。つまり、ミー散乱の条件とよく一致していて、チンダル現象の原因となる光の散乱はミー散乱の一種と考えられます。

ミー散乱とチンダル現象の共通点と違い

共通点

  • どちらも光が粒子によって散乱される現象である。
  • 粒子のサイズが光の波長と同程度か、それ以上である場合に発生する。
  • 散乱された光が観測者に届くことで、光の道筋や白く霞んだような見え方になる。

違い

  • チンダル現象は特定の条件下で観測される
    チンダル現象は、光の通り道が可視化される現象として特に注目される。例えば、霧の中の車のヘッドライトや、光が差し込む暗い部屋の埃の動きなどが代表的。

  • ミー散乱はより広範な現象を説明する
    ミー散乱は、チンダル現象を含むより一般的な光の散乱現象であり、雲や霧が白く見える原因、煙の拡散、粉塵による視界のぼやけなど、さまざまな現象を説明する。

身近な例

霧の中のヘッドライトの光

ミー散乱とレイリー散乱_車のヘッドライト

夜間、霧の中を走る車のヘッドライトが光の筋として見えるのは、チンダル現象によるものです。これは霧の水滴がミー散乱を引き起こし、光が観察者の方向に散乱されることで起こります。

ホコリが浮遊する部屋での光の道筋

暗い部屋でカーテンの隙間から光が差し込むと、空気中の埃が照らされ、光の道筋が見えることがあります。これもチンダル現象であり、埃によるミー散乱が関係しています。


レイリー散乱とラマン散乱について

ラマン散乱とは?

ラマン散乱(Raman Scattering)とは、光が物質に当たった際に、一部の光が入射光とは異なる波長へとシフトして散乱される現象です。これは光子が物質の分子と相互作用し、分子の振動や回転にエネルギーを与えたり、逆にエネルギーを受け取ったりすることで生じる非弾性散乱の一種です。ラマン散乱は、物質の分子構造や化学的性質を分析する強力な手段として、化学、物理学、医療、材料科学などの幅広い分野で活用されています。

ラマン散乱の応用分野

化学分析・材料分野

  • ラマン分光法を用いることで、試料に含まれる分子の種類や結合状態を分析
  • 物質の組成分析や、不純物の検出、化学反応のモニタリング

生物・医療分野

  • 生体組織や細胞の非侵襲的な分析
  • がん細胞の診断や、DNAやタンパク質の構造解析に利用

レイリー散乱とラマン散乱の比較

項目 レイリー散乱 ラマン散乱
散乱の種類 弾性散乱(波長変化なし) 非弾性散乱(波長が変化する)
エネルギー変化 なし(入射光と同じエネルギー) あり(分子の振動、回転によるエネルギー変化)
大気中の微粒子、透明な物質中の微小粒子 すべての分子に対して発生
主な応用 空の青さ、夕焼けの赤さ、大気光学現象 分子構造解析、化学分析、生体計測


なぜミー散乱とレイリー散乱が重要なのか?

ミー散乱(Mie Scattering)とレイリー散乱(Rayleigh Scattering)は、私たちの身の回りで起こる多くの光学現象を説明する上で非常に重要です。これらの散乱は、大気現象だけでなく、科学技術、医療、環境分野など、さまざまな分野で影響を与えています。

科学技術や計測技術に応用

大気・環境モニタリング

レイリー散乱とミー散乱は、大気汚染の測定やエアロゾルの分析に活用されます。例えば、レーザーを用いたリモートセンシング技術(LIDAR)では、大気中の粒子の散乱特性を分析し、PM2.5や煙霧の濃度を測定します。

PIV(粒子画像流速測定)やレーザー計測技術

流体力学の分野では、レーザーを用いた計測技術が広く使われています。例えば、PIV(Particle Image Velocimetry)では、流れの可視化のためにミー散乱を利用し、流体の動きを解析します。この技術は、航空機の設計や工学シミュレーションに役立っています。

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医療やバイオ分野への応用

光学診断

医療分野では光の散乱を利用して組織の構造を解析する光学診断技術(OCT: Optical Coherence Tomography)が開発されており、非侵襲的に生体内部を観察する手法として重要です。

生体組織のイメージング

ミー散乱は、生体組織の光学特性にも影響を与えています。例えば、レーザーを用いた皮膚や血液の分析では、ミー散乱を考慮した光学モデルが活用されており、がん診断や血糖値測定などに応用されています。

工業・光学技術に利用

レーザーや光学デバイスの設計

光学フィルターやレンズの設計では、光の散乱を最小限に抑える工夫が必要です。特に、精密機器では不要な散乱光を抑えることで、より高精度な測定や画像解析が可能になります。

塗装・コーティング技術

ミー散乱の特性を利用して、特定の光を反射・拡散させる塗料が開発されています。例えば、自動車のヘッドライトの拡散カバーや、日焼け止めの紫外線散乱剤などに応用されています。

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ミー散乱とレイリー散乱についての質問

ミー散乱とレイリー散乱の違いはなんですか?

ミー散乱とレイリー散乱は、光が粒子に当たって散乱する現象ですが、
粒子の大きさ散乱の特性によって異なります。

ミー散乱:
粒子の大きさが光の波長と同じ程度、またはそれ以上の場合に発生し、
波長に依存しにくい散乱です。そのため、雲や霧のように白っぽく見える現象を引き起こします。
また、光の進行方向(前方)に強く散乱する特徴があります。

レイリー散乱:
粒子の大きさが光の波長よりもはるかに小さい場合に発生し、
短い波長の光ほど強く散乱される特性を持ちます。
これにより、空が青く見えたり、夕焼けが赤く見えたりする現象が起こります。
また、全方向に均等に散乱されるのも特徴です。

簡単に言うと、ミー散乱は霧や雲の白さ、レイリー散乱は空の青さや夕焼けの赤さを生み出す散乱です。

ミー散乱ではなぜ白く見えるのですか?

ミー散乱では、光の波長と同じ程度、またはそれ以上の大きさの粒子によって光が散乱されます。
このとき、すべての波長の光がほぼ均等に散乱されるため、特定の色が強調されることなく、
白っぽく見えます。

例えば、雲や霧が白く見える理由は、空気中の水滴がミー散乱を起こし、
太陽光(白色光)のすべての波長を均等に散乱するためです。
同様に、粉塵や煙もミー散乱によって光を均等に散乱し、白っぽく霞んで見えます。

これは、レイリー散乱のように波長の短い光(青)が特に強く散乱されるのとは異なり、
光の色のバランスが崩れないため、結果的に白い光として知覚されるためです。

なぜ空は青く見えるのですか?

空が青く見えるのは、レイリー散乱によるものです。

太陽光には、赤・橙・黄・緑・青・紫といったさまざまな波長の光が含まれていますが、
レイリー散乱は波長の短い光(青や紫)ほど強く散乱する特性を持っています。
大気中の空気分子(酸素や窒素など)が太陽光を散乱させる際に、
青い光が特に強く散乱されるため、空が青く見えるのです。

しかし、人間の目は紫色よりも青色の光に敏感であり、
また大気は紫色の光を一部吸収してしまうため、実際に私たちが見る空の色は青くなります。

これは、日中の空が青く、夕焼けが赤く見える理由の一部でもあり、
大気中での光の散乱によって私たちの見える色が変わる現象の代表例です。

夕焼けが赤い理由はレイリー散乱によるもの?

はい、夕焼けが赤く見えるのはレイリー散乱によるものです。

昼間の太陽光は、大気中で青い光が強く散乱されるため、空が青く見えます。
しかし、夕方になると太陽の位置が低くなり、光が通過する大気の距離が長くなるため、
散乱の影響がさらに強くなります。

このとき、短い波長の青色や紫色の光はほとんど散乱され尽くしてしまい、
私たちの目には届きにくくなります

一方で、長い波長の赤やオレンジの光は散乱されにくいため、
地平線近くの太陽や空が赤く染まって見えるのです。

また、空気中に水蒸気や微粒子(塵や煙など)が多い場合、ミー散乱も加わり
夕焼けの赤みがより強調されることがあります。


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